Sunday, August 12, 2007

ハンス・コパーの美のかたち

ハンス・コパーが亡くなってから今年で26年。ハンス・コパーは ルーシー・リーと工房を共にして、お互いに 多大な影響を与えあった希有なパートナー同士として知られる。 

 ルーシー・リーは工房にお客が来ると必ずハンス・コパーの作品を買わせようと した、とアメリカの知人が言った。彼は晩年のルーシー・リーを何度も訪ねて 交流があったから本当のことだろう。 

 それでも自分はルーシー・リーの作品に魅せられていたので ハンス・コパーの作品はルーシー・リーに勧められて おつきあいの気持ちで買っただけ、あの当時、勧められるままに 買っていたら今頃ものすごい財産持ちだよ、と笑う。

 私自身はもちろんルーシー・リーの作品は好きだ。彼女の作品には 見た瞬間に心を掴まれる。魅せられる。何度も何度も気になって立ち戻る、 その繊細さ、緊張感があふれていながら大らかさも感じさせる。 何種類かの色粘土がスパイラルに立ち上がった花生け。 口縁のゆらぎ。凜とした佇まいに心を揺さぶられる。

 一方ハンス・コパーの作品はルーシー・リーが「彼は本物のアーティスト」と 人に紹介したように、彫刻ととらえられる。ハンス・コパー自身は花生けの 内部には茎が倒れないように2重の器を作り、実際にルーシー・リーの工房では 彼の器に花が生けられていたという。 

 しかしなんと言っても彼の創るかたちは余計な物をそぎ落とした、極限まで 考え抜かれた卓越した比率を持つ彫刻だ。マンガンで黒マットに 仕上げられたキクラデス形。カップ形の花生け。白い泥粧を塗っては削り 下のマンガンが茶色に現れた複雑な表情。大胆に切り込まれた線模様。 見れば見るほどいい。すばらしい。ジャコメッティを思わせる、いや ジャコメッティは彫刻だが、ハンス・コパーのそれは彫刻でありながら 絵画的、詩的、歴史的、音楽的、哲学的。そして古い文化とモダンな感覚の 両方を内包している。

 ルーシー・リーの作品は部屋のどこかに置いておきたい。 どこかから見ていて欲しい、と思う。 ハンス・コパーの作品は常に目の前にいて欲しい。いつまでも こちらが見ていたい。

 彼が生きていたら、今私たちが知っている以外にどんな作品を残しただろう。 ハンス・コパーの作品のかたちは常に「今在るかたち」から発展している。 必ずつながりがあり、「今在るかたち」のどこかが使われて 同じ線上にさらに発展したかたちが現れる。

 だから彼のかたちの変貌を同じ地平線上に並べたら、まるで 日の出から黄昏にいたる太陽のように、かたちの連なりが見えるだろう。 彼が生きていたら、キクラデスの次に生まれるのは何だったのだろう。